さて、ここからは私が取り組んで来た仕事のことに触れてみたいと思います。1985 年に三菱鉱業セメント㈱に化学技術者として入社しました。名前の通りセメントを製造する会社です。セメントの主原料は石灰石です。鍾乳洞は石灰石でできた山の中の洞窟です。石灰石を焼くと白い粉になり、水と混ぜると固まる性質があります。この性質を引き出すためには、1,500℃を超える高温で焼成する必要があり、石炭を燃料として使用しています。セメントはビルを作る、橋を作る、いわゆるインフラを整えるために必要不可欠な材料ですが、石灰石など天然資源を大量に利用しなければならず、石炭を燃やすことにより二酸化炭素も排出しています。しかし、その製造プロセスには大量生産だからこそできることがあります。それは、さまざまな廃棄物を、原料や燃料の一部として活用できることです。少し前のことになりますが、廃棄物固形燃料(RDF)という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?家庭から排出される生ごみを燃料に変えてしまう技術です。20 年ほど前、私は九州のある自治体でごみの焼却炉を燃料化工場に建て替えるプロジェクトに取り組みました。その町から焼却炉がなくなり、町中から発生する生ごみはすべて燃料として活用することに成功しました。そのプロジェクトの成功には二つのキーポイントがありました。一つは技術です。
 廃棄物を取り扱うのはなかなか難しいことです。いろいろなものが入ってきますから、その多様性に対応する必要があります。地味ですが、実は高度な技術が必要です。二つ目は住民合意です。ごみ処理は確実に実施しなければならない、地域の問題であり、大切だということは分かっているのですが、いざ、自宅の近くに施設が建つことになると、迷惑施設だという気持ちが湧いてきます。NIMBY(Not in my Backyard)という感覚です。これは、ある意味で人間の自然な感情とも言えます。しかし、どこかに建てなければならない。感覚的には迷惑施設ですが、もちろん、悪臭、騒音、振動など想定される迷惑要素には考えに考え抜いて、技術的対応を施します。しかし、理屈ではない漠然とした不安感が最大の敵です。ここから合意にまで到達すること、大変な仕事でした。最も大切なことは、難しいことを分かりやすく、丁寧に説明することだと痛感します。今後の市政には、こうした技術力と地域とのコミュニケーターが必要だと思います。ビジネスでの経験を市政に活かしたいと考えています。
 もう一つ、海外での仕事について触れます。2015 年からは NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構;国の機関)で日本の技術を海外に紹介、展開する仕事に従事していました。日本では 2001 年から法律が施行されて家電リサイクルを推進してきました。テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコンを適正にリサイクルをするものです。鉄、アルミ、銅を中心に、基板に含まれている貴金属も回収してリサイクルします。同時に、フロンなど有害物質を大気や海域に放出しないことが重要です。やはり、ここにも大切な技術が必要であり、日本は高度な技術開発に取り組んできました。この技術を ASEAN(東南アジア諸国連合)を中心に紹介し、採用を促進してきました。私はタイ王国、バングラディシュとインドを担当しました。この仕事を通して知ったこと、感じたことは、高度技術ならそのまま活用できるのかと言うと、そうではないということです。それぞれの国には文化がある、国民性も異なる。優秀な日本の技術を海外で活用するためには、現地の状況を適切に理解し、関係者の考えを聞くことから始まります。このステップが大変重要です。さらに、その情報をベースに技術そのものを各国に合わせ調整をしていく、チューニングをすることになります。この一連のやり方は、仕事だけではなく、ボランティア活動の進め方にも役立ちました。そして、地元でのコミュニティーづくりにも役立つと確信しています。
 どんなに優れた技術でも、それを活用するフィールドとのマッチングが重要だということに触れました。また、技術は正に日進月歩なので確実にフォローする必要があります。市政にも数多くの技術が活用されています。技術の内容を理解することは不可欠で、また、いったん採用した技術がどんなに優れた技術であっても、必ず時の流れの中で陳腐化していくものです。フォローを続け、新しい時代に向けた確実な準備が必要です。
 武蔵野市は住みたい町ナンバーワンになったことがあります。これは、過去のことです。海外での仕事、特にアジア諸国に技術を展開しようとすると、今となっては日本の技術は認めるものの、それをそのまま導入しようとは思わないと言われます。同じような技術は中国も持っていて、安く提供してくれると言います。技術レベルが近づいてくると、圧倒的に優勢だった過去のようにはいかなくなっているのだと、痛感します。武蔵野市も過去に積み上げたものがナンバーワンの地位を作ったのですが、その時点で留まっていると、気付くと陳腐化しているということになります。今は将来のための瞬間なので、今こそ将来の武蔵野のために適切な投資をする必要があると考えます。
 

「先輩たち――繋がりのワクワク」
「循環型社会――ワクワクの地域づくり」